6月22~23日 ストレス社会を生き抜く職場 その1 (アエラ6・20号より)
6月22〜23日 ストレス社会を生き抜く職場 その1 (アエラ6月20号より)
< 新型うつの呪縛を解け> レッテル貼りに振り回されない
仕事が辛くて休職したはずなのに、ちゃっかり旅行に出かけていた。そんな若者の身勝手な
「新型うつ」が話題になって久しい。医学的には、この病名は否定されたが、その言葉は
今も一人歩きしている。この問題に対して専門医の先生方のご見解を傾聴しつつ、該当する
青年への対応に苦慮している職場の関係者の方々に参考になればと思っています。
冒頭の例として、ある電機メ−カ−勤務のAさんには、営業部長とは別の肩書がもう一つ、
新型うつ対策医委員長。メンバ−は、部長職8人。従来のうつとは違うらしいから対応を
間違えないようにと、産業医を呼んで勉強会を開いたり、若手社員のストレスチェックを
したりしたとのこと。
しかし、新型うつが、マスコミで取り上げられなくなると、その委員会は消滅したとのこと
でした。いまも、そのような新型うつと思われる社員が何人かいても、とくべつな対策は
せず、産業医との話し合いに任せているとのこと。今となっては、どんな病気なのか説明
できないと語っています。つまり、この病気の「病理」(どのようにして発病し、それに
周囲の者はどう対処したらよいかなど)がわからないということです。
▲ 患者は病名と勘違い
10年程前、「新型うつ」や「現代型うつ」と言った言葉がメディアにさかんに登場する
ようになった。
しかし、新型うつも、現代型うつも病名や診断名ではない。なのに、新型インフルエンザの
ように新しい病名と勘違いする人が続出した。医師の中にもいたそうです。新型うつという
呼び名が一人歩きしてしまったため、日本うつ病学会は、2012年に公表した
ガイドラインで、「現代型(新型)うつは、マスコミ用語であり、精神医学的に深く考察
されたものではなく、治療のエビデンスもない」との見解を発表したとのことです。
何故こんなことになってしまったのか。
精神科医の菅原誠先生によれば、古典的なうつ病は、几帳面で真面目な律儀な人がかかり
やすいとされてきた。過剰なストレス、がかかった結果、自責の念に駆られ、意欲が
なくなる。かっての私の同僚Mさんがまさにそのとおりの気真面目そのものでしたが、
その長所がクラス担任としての生徒との関係で何かしら裏目に出ていた感じでした)
落ち込みが続く、好きなことが楽しめない、眠れないといった症状が現れる。 ところが、
10年ほど前からこうしたうつとは異なる性格傾向や、症状を呈する患者が目立つように
なった。気分が落ち込み職場に通えなくなる反面、デ−トや旅行には元気に出かける。
病状は深刻にみえない。自己愛が強いので自分が悪いとは考えず、上司や同僚を悪者に
する−−−。
では、新型うつの正体は何だ ったのか、新宿東メンタルクリニック院長で、精神科医師の
三浦勇太先生は、こう話す。「従来型(定型)とは違うタイプの非定型うつだったり、
比較的軽いうつだったり。双極性うつの時期という場合もあります。うつでなく、適応障害、
対人恐怖症 不安障害だったり、これらが混在していたりすることも少なくありません。」
この三浦クリニックに訪れる新型うつと言われる症状で受診するのは、20〜30代が
中心とのこと。最近は、「新型うつと言われると、いい気がしない」と訴える患者が多い
という。 三浦先生は、「「新型うつは怠けている。自己中心的といったイメ-ジで受け
取られ易い。できるだけ早く根本的な病状を明らかにするための医学的な診断とそれに
沿った適切な治療を受けた方がいい。
患者さんを新型うつという発想から解放してあげることが大事です。」
◎この箇所を読んでいて、即座にこれは、最近公的な場やメンタルの専門誌などに出ている
「障害者に対する合理的配慮」に関わる見解と直感しました。
この「合理的配慮」はすでにブログで紹介しましたように、国連の障害者への差別撤廃宣言
に由来しますが、原語はREASONABLE ACCOMODATIONです。後者の
アコモデ−ションとは、食料があり宿泊ができる快適な場所、障害者の求める「居場所」
なのです。
三浦先生のような医療機関の先生方のご尽力による治療効果ともに、本人を取り巻く家庭や
職場の人々の教育による理解も不可欠と痛感しています。ただ、今の青年たちの自己中心的
な言行にいらだつのでなく、彼らが職場の年長者と異なった成育歴に由来する
パ−ソナリティの違いについても配慮できると、「今の若い奴は」という決めつけ方も是正
できると思います。
トヨタの社員教育の公開記事を少し読んでいてもそのようなことを感じました。
以上の若い世代とのギャップについて、早稲田大学の鈴木先生も次の記事で
指摘されています。
▲ 頭の中で何かがぶつっ
早大人間科学学術院教授でうつ病患者などへの認知行動療法も行う鈴木伸一郎教授は、
20〜30代の若者の育てられ方の変化を指摘する。「人は色々な人間関係の中で、
つらい思いもしながら周囲に受け入れてもらえるように試行錯誤し、たくましい大人に
成長していきます。ところが今の若者世代は少子化で大事に育てられ、親はできるだけ
困難な事態に直面しないように先回りし、苦しい状況から
早く抜け出せるように手を貸してしまう。結果的に子供がたくましく成長する機会を
摘み取ってしまうことがあるのです。」学生時代は難なく過ごせても、社会に出たとたん
厳しさや責任を求められ、一気にストレスが増す。
対処出来ずにうつを発症してしまう危険があるとのこと。−−−−−
また、鈴木先生は、職場になじめず成果の出ない若者の代名詞として、新型うつという
便利な言葉が使われているのではないか、指摘しています。「定義があいまいなため、
職場で不全感を覚え、対応が難しくパフォーマンスの落ちている若者を全て新型うつと
呼ぶことで納得しようとしてしまう。
しかし、レッテルを張られた瞬間から”病気だから” ”そういうタイプの人だから”と職場
から孤立してしまいかねない」 そうし若者の対応について、同先生は、二つのポイントを
挙げています。
「具体的な方法論を教えること」 「できた時は、褒めて安心感を与えること」
自分の頭で考えろと言われて育った上司には受け入れがたいかも知れないが、試行錯誤して
困難を乗り越えた経験に乏しい若者には、「企業という新しい文化の中でどう振る舞ったら
いいのかをきちんと教えてあげること大事。そういう若者の仕事のレベルが上がって来て
くれないと、組織全体はいつまでも苦しいままですから」
(CBTの専門家らしい現状のメンタル不調になりやすい人々への対処法として
的を得た貴重なアドバイスと思います。先輩のたった一言で心が折れてしまうかも知れ
ませんし、逆に先輩の塩味の効いた一言で立ち直ることさえあります。社内の誰にも
自分のつらい心境を言えない、家族にも話しずらい、話せる知人もいないとなって、
巷のクリニックへいっても、簡単な診断と投薬では、一時的な治療効果しか期待
できません。まずは、社内で鈴木先生が言われるような
受け皿をつくることが「メンタル不調者への合理的配慮」に関わることになると考えます。
独りぼっちの「ぼっち族」の新入社員には、その心の空白を埋める「おやじ」「兄貴」
と言える先輩の存在が大きな意味をもちます。私自身そんな方々にお世話に
なりましたから