8月19日~26日 部下の力を引き出す その2
1 章 できる上司の心得
4 なぜ報連相がきちんと機能しないのか
▲ 報連相の不徹底は上司の責任
報告、連絡、相談の「ホウレンソウ」が職場の原点だと言われきなる。これがきちんと機能して
いれば、業務の流れにそれほど大きな支障は生じない。仮に生じても、早い段階で手を打つ
ことができるのでダメ-ジを最小限に抑えられる。---だが現実は、機能不全に陥っているかの
のようなところが少なくない。なぜだろうか。-------上司たちに聞くと「ちゃんと教えているのに
実行しない 。」 悪いのは、部下だと言っているかのようだ。
しかし、部下たちに聞くと、違ったこたえが返ってくる。
「ホウレンソウするようにといわれていますが、いつすればよいか迷います。上司は会議や
外回りでほとんど席にいませんから。」 「相談にいくと、すごく面倒くさそうな顔をするんです。」
「忙しいから後にしてくれといわれることが多くて。いつだってそうです。」
上司の側にはそれほどの自覚がない。『面倒くさそうな顔はするとしても、そんなのは
ごくたまのことだし、忙しいから後にしてくれなどと言うことだって滅多にない。」
にもかかわらず、部下の印象は異なる。上司と部下の間は、(特にあまり相性がよくない
間柄では)こういう気持ちのズレは頻繁に起こるとのこと。
筆者は、まずは、上司が自責の観点に立って次のように心がけてみることだと提言します。
① 部下がホウレンソウに来た時には、快く迎えてやろう。
② 手が離せない時は、『後」でなく、いつならよいか時刻を指定しよう。
③ 超がつくほど多忙な時期なら、予めホウレンソウタイムを決めておこう。
こうした心がけが対話の潤滑油となり、連絡不徹底による業務上のミスや
事故などの未然防止にもなるとのこと。
その他、このホウレンソウタイムのことは、掲示板に表示するなどして「相談の時間」を
該当部下のために確保し優先することを表示しておくこともよいと思います。
▲ 簡単にできるホウレンソウの「見える化」
この箇所では、前述のようなホウレンソウの課題に対して筆者が工夫した
チェックリストの活用の提言をしています。
ホウレンソウがきちんと機能していない職場には共通点がある。それは【見える化」が
できていないということだ。大切なことは口で言うだけでなく、目でみてはっきりわかる
ようにしておくのが「見えるか」の精神である。
ホウレンソウにしても、「もっと早くしろ」 「メ-ルでなく、口頭にしろ」 「結論から先に言え」
なとそのつど説教調で指示命令だけでは、部下の方が委縮してしまう。特にまだ
職業経験が浅い新人や若手職員には、予めポイントを箇条書きにしたものを提供し
一目でわかるように配置することが肝要とのこと。
ホウレンソウするときには、必ず これをみてから実行する ことと言って
チェックリストを渡しておけば、部下の側の習得も早い。
<ホウレンソウのチェックリスト>
全部で15項目ある中で主要と思われる7項目を列挙します。
○ 悪い情報ほど早めに伝えよう。
○ 前置きは短くして結論、経過の順で話そう。
○ 事実情報と自分の違憲や憶測ははっきり分けよう。
○ 報告内容は5W2Hに即して伝えよう。
○ Eメ-ルとファクスを用いた場合は、伝わったかどうかを対面によって確認しよう。
○ 不明なこと、判断に迷うことがあったら必ず相談しよう。
○ どんな小さなミスも隠さず、正直に語る勇気をもとう。
終わりから二番目の相談について次の箇所で筆者の意見を集約します。
▲ 相談がないことはよいことではない
報告、連絡、相談の三つはどれも大切。でもあえていうなら、筆者は「相談」を
最重要視するとのこと。 それは部下が大事な判断を迫られることがある
からです。上司の叱責、嫌味などを恐れていては、役所、会社の仕事はうまく処理
できないことがあるからです。
筆者は、報告、連絡はきちんとわかるように指示すればある程度できるように
なるものだ。しかし、「相談は、しなくても何とかなるため、部下は怠りがちになる。
特に良好なコミュニケーションが築けないとは職場では傾向として相談事は
少ない。相談しにくいから、したくないから、本来は上司の指示を仰ぐべきことまで
部下が自分の判断で行ってしまう。」
以上の4行の内容はさらっと書いている感じがします。
「相談はしなくてもなんとかなるため、部下は怠りがちになる。」
◎ しかし以上の箇所は職場環境、従業員の服務規律に関わる
問題を含んでいます。「安心して気持ちよく働ける職場づくり」の責任は
誰にありますか? 筆者も断言しているように、働く場の条件整備の責任は
上司側にあります。 しかし現実には、本当は上司に判断を仰ぐべきところを
「まあいいか」で過ごしていく怠慢ぶりのもとは上司に責任ありと私は感じます。
かって小さな物流会社の顧問をしていた時、社長に依頼されて作成した
「就業規則」に業務の遂行に際しては、「専断的判断」をしてはならない」と
書いたのを記憶しています。まさに「上司と相談」を意味します。取引先とのことで
会社に損害を与えないことを意識してのことです。尊大な言い方かも知れませんが
このようなリスクの有無の差ではないかと想像します。
ともかく、なんかトラブルになって「お前の責任だ」では部下の士気にも影響します。
「安心して気持ちよく上司も部下も働ける職場」にするには、上司から 「部下が
もっと進んで必要な時は何とか時間をつくって相談に応じるよ」とウェルカムの姿勢を
はっきり打ち出すべきと考えます。そのことが市民、国民サ-ビスの向上に
つながると信じています。市民の前にでたとき、上司に対するストレスを抱えていて
どうして好感されるサ-ビスが提供できますか?
それから部下から相談をもちかけられることが少ない上司は、「相談するほどの
問題が生じていないのだろう」と考えがちだが、これは大きな間違いだ。
まずは「相談できないほど大きな問題を抱えているのではないか」と考えて
自分から一歩部下の方に歩み寄ってみることだ。
例えば残業の多い部下には、「いつもご苦労さん。このところだいぶ忙しそうだが
何か支援できることはないかな?」といった感じで。
◎ それもいいと思いますが、人は簡単には、今困っていること、気になって
いることなど、特に上司の前では弱みを見せたくないという防衛意識が
働くと胸襟(きょうきん )を開くことはしません。信頼関係がないと心の中は見せ
ないのが通例のことです。
日頃の上司の言行を観察していて何か感動するもの、共感するものを
感じない限り自ら心は開きません。
しかし、一度に過大な要望を抱かず、上記の例のようにな努力をすれば
何かのきっかけで道が開ける場合もあります。
それとともに、上司も胸襟を開くことも必要です。肩の力抜いて
「俺は上司だ」という構えをほぐすだけの度量の広さ、包容力そんなものが
自然と出てくると部下との距離は縮まると考えます。酒の席でなくても。
次に触れます「積極的傾聴」関係してきます。
5 何故部下の話が聞けない上司が多いのか
前述のホウレンソウでは、報告、連絡は事実を伝えればよいので、部下に
とって余り心理的負担にはなりません。
対照的に「相談」は上司の顔色を伺わなければできません。
しかも相談事の大半は、悪い二ュ-にからんでいるもので、仮に現段階で悪くなくても
対応が遅れるとそうなりそうなリスクを秘めています。
管理者にとって重視しなければならないのは、悪い二ュ-スの方。
そうであれば、上司は、部下の相談に気持ちよく応じなければならい道理を
わきまえねばならないのは当然のこと。
しかし、部下にとっては、「相談」は、両者の信頼関係がないと、なかなか
それはできません。上司に問われるのは、日ごろから部下に心を向けている
かどうか、聞く耳をもっているかどうかです。
カウンセリングの基礎となっている「傾聴」、筆者のいう積極的傾聴、
( active listenning ) とは、ただ相手の言っていることをしっかりと
聞くだけでなく、聞いた後でその内容を要約して返すことも含まれています。
その返しによって話し手は、自分の顔を鏡でみるように、自分の心を
客観的に知ることでができ、「気づき」が得られ、自己開示進んでい きます。
それと部下の気持ちに共感して返すことも相手に良い印象を与えます。
さらに、その相談の時、部下の「相談に来てくれた」ことへの感謝、労をねぎらう
ことで相手に好感を与えることができます。
このように気分をほぐしておいて、叱責すべきことを冷静に話すと
相手も冷静に受け止めるものと思います。
相手に反省を促す場合などは、このような積極的傾聴が不可欠です。
「部下のかゆいところに手が届く」手法としての積極的傾聴は色々と
役にたちます。
6 何故あの人の部下は腐ってしまうのか
▲ 「 差別なく接している」のは思い込み?
筆者が上司の部下や後輩との接し方について聞いてみると、大半の上司は次の
ように答えたとのこと。「私はできる部下にも、そうでない部下にも、差別なく
接しています。」多分嘘でない。本人の感覚としては、。
しかし、部下の側に聞くとそうでない。「できない部下」とレッテルを貼られた者の
多くは、明らかに差別されていると答えるものだ。
自業自得という面はある。やる気が表に出ない、仕事がのろい、受け答えが下手だ、
機転が利かないなど、上司に悪いイメ-ジをもたれる要因は少なくないはずだ。
しかし、第一印象やイメ-ジによって「できない部下」のレッテルを貼られた、まさに
そのことで、一層部下が落ち込み、委縮し、能力を発揮できなくなるという負の連鎖が
よくみられる。次の会話がその例である。
a 上司と部下との対話
「忙しいだろうが、この仕事を来週までにやってもらいたい。
「来週までですか。○○かxxの方法でよろしいですか?」
「おお、さすがに飲み込みがはやいな、、君は。どちらでもかまわんよ」
「わかりました。進捗状況は、週末にでも報告いたします。」
「 そうしてくれ。君に任せば安心だ。出来ばえを楽しみにしているよ。」
「ありがとう御座います」
b 部下と上司との対話
「この仕事を来週までにやっておきなさい」
「来週までにですか」
「来週といったら来週だよ。何か不服でもあるのか?」
「いえ、そういうわけでは。ただ、このところ仕事がたて込んでいて」
「そこをちゃんとやるのがプロじゃないか。新人みたいなことを言うな」
aは仕事のできる部下 bは仕事のできない部下。前者は、できる部下らしく、要領の
よい答え方。上司の方も励ましの気持ちのこもった言葉で応じている。
bの部下は逆に、要領が悪そうだ、と筆者は言うが、わたしもそれを感じますが、
それにしても、威張り腐って嫌味 たらたら。こんな口調で言われたら、メンタル
不調に成らないかと気になりました。いったん「こいつはダメな奴」と決めつけると
こんな高飛車な態度が習慣化してしまうから、上司に「自覚症状」のない限り
改善の余地はありません。
▲ 自覚症状がないからこそ深刻な問題(上司の資質に関わる)
上記のaとbの事例からして上司の差別は一目瞭然。このことについて筆者は
「上司は意識して使い分けているわけではないだろう。だから深刻なのだ。」
『愛いやつ」(仕事はできるし、素直に従ってくれる)と見込んだ部下には、見守る
まなざしとなって、思いやりに満ちた言葉をかける。だからそれに応えようと努め
良好な関係が進展していく。
逆に『お荷物」とレッテルを貼っ部下には、見下し、 見放しの眼差しでにらみつけ
思いやりの欠けた高圧的言葉を浴びせる。そうでなくても、見下された部下は、
やはり自分は、ダメな人間、嫌われ者なのだと卑下しますます『お荷物」めいた
雰囲気を漂わせるようになる。
接する上司の側に自覚症状があれば、素直に反省して改めることもできる
のに、これが欠けていては他人に指摘されても、そんなことはないと否定され
改善の余地はない。
管理監督者は、当然部下の教育をする責任があります。しかし自分の問題点に
ついて自覚症状のない人は、「アンデルセンの裸の王様」みたいでは
部下の適切な教育ができません。この上記の事例のよう な指導が
必要な部下程、 慎重な配慮が必要です。自分が恥部をさらけ出しているのに、
それに気づかない上司は、うつの症状が出ていることを周辺の人々が知って
いるのに自分は「うつではない」と言い張って 病識の無さを露呈しているのと
似ています。適正な人事考課でもって、このような上司の昇格は防止しないと
関係者は大変迷惑します。「虎の威を借りる狐」では職場がうまく機能しません。
もう一つは部下の教育。たとえ劣った点が若干あったとしも、適切な傾聴の
姿勢をもって、愛情と忍耐で指導することが肝要かと思います。
以上のようなことについて上司が唯我独尊で人の意見を聞かないと周囲の
人々がそのつけを負うことになります。
また、 以上のことが欠けていると職場の士気に影響しますし
該当者がメンタル不調になれば監督者の責任問題とか
仕事の遂行上の支障など色んな問題が出てきます。
▲ 部下のやる気が出るのはどんな時か
筆者が一都六県の300名に「一番やる気が出るのはどんな時ですか」 の
調査をしたときの結果は、次のようでした。
賞賛、成功、挑戦、報酬(昇給、昇格など)、プレッシャーや逆境、叱責
以上が多い順である。
モチベーションが上がり達成感を得られるのは
「挑戦-成功-賞賛」の過程である。
この挑戦、プレッシャー、叱責などなどによっては適度なストレスがやる気を
促し賞賛、報酬など一定の成果があることを示しています。
しかし、誰でもがこの過程を踏むのでなく、一定の能力、性格のような資質が
あってこそストレス耐性が発揮できます。
反対にこの耐性の弱い人は、「プレッシャー-失敗- 叱責」の過程をたどるとのこと。
◎これは調査の前からかなり予測できることであって、さらりと流してしまいそうな
記事なのですが、3名が叱責された時にやる気がでると答えています。
この3名は、多分仕事もでき、ストレス耐性も強いと感じました。
仕事の能力、この耐性も弱いのに、叱責されてもやる気を出す部下は
上司が指導力があると感じました。
ストレス耐性を育てることも大事な教育の一つです。
とかく上司は、実績向上に心が奪われて部下の働きを短絡的に見るのでなく
劣った部下ほど 暖かい眼差しで見守る度量があると、その部下も
成長する機会が出てくることもあります。
ある総務部長が私に語っていましたように、短距離競争に負けても、
中長距離競争で勝つ社員に育てたい。しかも、この先他社に行っても
そこで「間に合う社員」に育てたい。この言葉の意味の大切さを痛感します。
◎ 筆者の調査記事でさらに念押ししたいこと
● できる部下の承認、励まし、チャレンジによるエンパワーメント、報酬等は
確かにモチベーションを上げますが、「燃え尽き症候群」にならないこと
これが要注意と感じました。それとこの先管理職になれそうな部下に
対しては、人間関係を良好にするカウンセリング、コ-チングの勉強を促す
ことも有益かと考えます。
● できの良くない部下に対しては、自信をもたせる指導。カウンセリング等
たとえ結果がよくなくても、それに至る大事な通過ポイントを部下と共に
考え、適宜アドバイスして、失敗してさらに落ち込むのを防止して
気持ちを整理させて次の機会で少しでも改善できるよう支援することが大事と
考えます。認知行動療法的に言うなら、失敗の中から視点をかえて
学習することで、その人の良き資質が発揮される時が来ることも期待できますので。