4月11〜12日  続 就労とゴ−ルについて   胡桃澤伸先生執筆

   4月11〜12日  続就労とゴ−ルについて  胡桃澤伸先生執筆

 

   後半の記事では、筆者が統合失調症のAと、どのような配慮をしてAと対話し

   通常のロジャース流カウンセリングと異なる方法で彼との良好な関係を築いて

   貴重な学びの体験をできたのかが焦点になります。

   前半では、年金申請を障害者方々に対して「後ろめたい気持ちにならなくていいのです」

   しっかりと治療するのが仕事なのです」と思いやりをこめたメッセ−ジではげまして

   います。後半の記事でも、内因性遺伝的要因に起因すると言われる統合失調症の

   患者との関わりの中で、筆者の言葉そのものでなく、その言葉を通しての幻聴と対話して

   いることの気づきがポイントになっています。

     このAについて筆者は、いかのように述べています。

   院外散歩に出かけては、百円均一の店に立ち寄り、私にキャラメルを買って帰ってくる

   Aさんがいた。幻聴と会話し、考えたことが中空に文字になって現れるAさんは、自分の

   もとに大金が集まっていると信じ、配金表を作り続けている。精神科医であれば、どの医師

   でもAさんを統合失調症と診断するだろう。当時私は、長期入院している統合失調症患者に

   外出、外泊、面会の機会をつくること、レクリエーションへの参加を促すこと、中庭への

   散歩に誘うこと等を行っていた。人との交流の場に出そうとという意味で、「就労」支援的

   な取組と言っていいかも知れない。そしてAさんは私のこの「就労」支援的な働きかけを

   ことごとく拒否した。受け入れてくれるのは薬のみ。それも変更はめったに許さない。

   採血すらさせてもえない。Aが黙って私に許すのは、そばでいることだけ。私がAさんに

   行える働きかけはごく限られていた。これをあえて「労働」と呼んで、論を進めてみたい。

     Aさんは私の労働を消費するだけでなかったのか。何も生み出さず、私に代価を

   支払わなかったのか。そんなことはない。Aさんから多くのことを教えられた。

   私の労働と等価、或はそれ以上のものをAさんは私に与えてくれた。

         幻覚、妄想とは何か、統合失調症とは何か。幻覚、妄想と共にあるとはどういうこと

   なのか。精神医療を受け、精神病院で暮らすということがどういうことなのか。

   統合失調症を生きるとはどういうことなのか。私は、Aさんの態度、言葉に何度も

   唖然とさせられた。真の学びがあったあったと言ってよい。

    ある日ディル−ムで対面して座っていると、Aさんが口を突然めい一杯大きく開け

   歯が殆ど抜け落ちている歯茎を見せ、言った。「私歯がない、、電気ショック受けたから。

   抜けた、怖かった」 私は驚きで胸がつぶれ、「それは怖かったね」と言えなかった

   (ここで共感したらさらに相手の気持ちを助長することになるからです)

   Aさんは、実際に「怖かった」「怖かった」と繰り返していましたから。

     筆者は一言も発していないのに、Aさんはしきりにうなづいて話を先に先にと

   進めていくのでした。初めて会ってから数年間そういう診察を繰り返した後、どうやら

   Aさんが筆者の声で幻聴を聴いて、筆者の声の幻聴にうなづいているのに気づいた。

   Aさんが聴く、私の声の幻聴が私の面接中に起きていて、Aさんには現実の私の声と

   幻聴の私の声との区別がつかない。わたしの言葉は私の思うようにはAさんに

   届かない。Aさんの幻聴によってわたしの言葉でないものが私の言葉としてAさんに

                                       届く。

   私はどうやって面接したらいいのか途方に暮れた。−−−

        しかし、私自身、子供の頃に人形で遊ぶときには人形に話しかけ、人形になって 返事して

   いたのを思い出し(腹話術)事態を理解できたような気がした。 自分はAさんの遊び

   道具の人形になってみよう。Aさんは私に話しかけ、私の声の幻聴を自由に聴けばよい。

   Aさんが聴いている私の声の幻聴がAさんを脅かさず、安らぎを与える者であって欲しい

   と願い、そうなるには、どうしたらよいかを考えて立ち振る舞いと表情を工夫した。

   (つまり、筆者は、通常のカウンセリングでなく、Aさんの言っていることに対して

    共感もしないし、否定もしない立場で対処するための工夫を考えていたのです)

   力を抜いて、椅子にはゆったりと座り、手足も胴体も動かさない。やわかく微笑み

   できる限り黙っている。不用意にうなづかず、声は低く、ゆっくり話す。

   このような自分の感情を抑えた対処の仕方なのです。 

   Aさんが私にキャラメルを買ってくるようになったのは、このこの取り組みが

   もたらした変化だった。言葉の機能と限界。面接とは何か。そしてその意味と可能性を

   私はAさんから学んだ。精神科の診療にとって面接は命である。その命についての

   豊かな教えをAさんは「生産」していた。 

   (Aさんは、筆者の言葉の幻聴に反応して自分の気持ちや思いを開示していた)

   只の消費者ではない。その生産物を受け取るのはなかなかの重労働だが、わたしに

   とっては他からだった。−−Aさんの営みは世間一般て言われる『就労」からはほど

   遠い。しかし、大学でのとおりいっぺんの精神科の授業や研修より価値があった。

   このAさんの営みを含みこめないような『就労」を語って何の意味があるのだろう。

   Aさんのような統合失調症の患者がいることを念頭において、従来の『就労」の

   かたちと意味を変え、練り直して初めて、医療者は、「就労」を語ることができると

   私は思う

   ◎  私のこの筆者の考え方についての感想

   世間の金銭感覚で「就労」問題を考察するのでなく、一社会人として、たとえ成長が

   遅くても忍耐強く希望をもって忍耐強く対処する胡桃澤先生の生き様に感動しました。

   統合失調症の権威、中井久夫先生の語られた「医師ができる最大の処方は(願わくは

   空疎でなく)希望である」

 

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