10月26〜28日 二回目の診察以後

  10月26〜28日 二回目の診察以後

       平井先生がCBTを活かして抑うつ性パ−ソナリティを持ったうつ病患者の

       強い自己否定からの脱却へ進む箇所が中心になります。

     ▲  二回目の診察  

   先生  前回 絶望感をわかってもらえない苦しさということを言いましたが、あれは

       どうだったんですか。

   N   確かにその通りだったのです。でも、それを認めるのは辛いし、苦しいし、

       それで黙っていました。

   先生  それで、今でも治らないと絶望されているのですか。

   N   というより、私、病気ではないんです。私のは性格から来ているから

       どうしようもないんです。 病気なら治せるんでしょうけど。

   先生  病気か性格なのかの議論をするつもりはありません。だいたい、そんな区別は

       厳密にはできないと思っています。精神科のクリニックは病気かそうでないか

       にかかわらず、困っている人のための「よろず相談所」と思っていますから、

       いくらかでも助けになればと思っています。 あなたもすこしでも苦しい中に

       いることは事実でしょうから、それを少しでも楽にできたらと思って

       いますが、おせっかい過ぎますか。

    N   先生の御好意はありがたいですが、私のこの性格は治しようがありません。

        もっと他のお困りの方を治してあげて下さい。(開き直りともとれる頑迷さ

        認知の偏りがよく出ています)

    先生  あなたはいつごろから、この性格は治らないとと考えるようになった

        のですか。 

     N  小学校ぐらいからです。友達もできないし、たぶん社会の中ではやって

        いけないだろうと思っていたとおりになりましたから(先生の言葉 実際は

        いつかわからないが、こういう状態の人は遠い昔のことを言う人が多い)

     先生  そんな昔からそう思われているいるのなら、よっぽど深い根拠がおあり

         のようですが、それをもう少しお聞かせいただいていいですか。

      N  先生がそこまでおっしゃるなら。でも、どうにもならないと思いますが。

       ▲ 先生の解説2

     絶望的で、拒否的な中、先生との話し合いの中、先生との話し合いは2回でき、

     表面的には消極的でも、本人から通うという約束までとりつけることができました。

     本人から性格の内容や治らないと思える根拠を聞くと、次第に次のことが明らか

     になってきました。「私は対人的に無能で魅力がなく、どう話していいのか

     わからず、人の話もきけず交わることもできない。本で得た知識も対人関係や

     社会人としての活動ができないと、どうしようもない。私は全く生きていても

     仕方がない人間だ」という自己否定感、「私には何の楽しみもない。

     本を読んでも字面を追っているだけ。たまに感動しても自分の今の生活を考えたら、

     すぐにその感動をかき消されてしまう。」という生きる喜びの無さ、

     「人との関係が全くできないし苦痛。私は人と親しくなりかけると、その人が

     どんどん侵入してくるように思えて怖い。それに親しくなると、いつか裏切られる

     のではないかという疑惑が生ずる。事実、今までしょっちゅう裏切られていて

     人間に対する不信感が強い。また、いつか相手に嫌がれ、相手に迷惑をかけしまう

     のも辛い。」「それで一人でいようとすると、”いつも一人だね”と嫌味を言われ、

     孤独でいることもできない。会社を辞めたのもこのことが大きい」という対人

     関係の悩み、「もう何も期待していないし将来に何の希望もない。だから

     自然に死ねたら、こんなにいいことはないのに」とという未来への絶望感

     ということでした。(ここの本人の対人関係の強い不信感の言葉から

     すでにブログで述べました、私の授業で教えた高2の女子生徒のことが

     フラッシュバックしてくる感じがして痛々しいです。青年期のこと、思想、

     など教えた後宿題として感想文を書かせ、その中の今も鮮明に覚えているのが

     その生徒の丁寧な字で書かれた作文。

     ”人は優しそうな顔をして、いざというとき、裏切る。人を信じてはいけない。

     信じるとかえって悲しい思いをする。”それを読んだ後その生徒に私から少し話したい

     と声をかけましたが断られ、その3日後位して自殺の悲報を知り、悲しくも、

     とても悔しい思いがしました。

     あのころ、その生徒は休みがちで、久しぶりに会って、「元気そうね」と

     言ったのが、まず失敗でした。「宿題の作文、とても丁寧に書いてくれて

     ありがとう」こんな言葉からはじめて、わたしでよかったら少し話ししましょう」

     こんな切り出しでもすれば、状況が変わっていたかも知れません。

     へぼな青二才教師の失策でした。

     平井先生は、本人の告白を聞かされ気が重くなったとのことでしたが、態勢を立て

     直して次のような対話をされたそうです。

            先生   確かに、これだけ辛い気持ちでいたら何の希望も持てませんよね。

    N   ええ、そうでしょう。だから、もう私のことなんか関わっても

        しょうがないんです。

    先生   ただ、話を伺っている間にこんな連想もわいてきました。しかし、とても

         あなたを傷つけてしまうかも知れないないのですが、伝えてよろしいですか。

    N    ええ、どうぞ。私はもう傷ついていますから。

    先生   つまりね、あなたの考えにはいい点もあるような気がしたんです。

         というのは、「将来に期待しない」ということは、、変な欲望を持た

         なくてもいいし、それだけ不安も煩悩もない。

         それに期待しておかなければ将来うまくいかなくてもそんなにがくっと

         くることもない。

         「また、人との交際をさける」というのは、煩わしさから逃れて一人で

         いることの気楽さを得ることになる。

         何よりも自己否定が強いというのは、自分をより深く見つめることが

         できる能力の一つであるし、他者への不信感は他者からの不用意な侵入を

         防ぐ意味では大変有効だと思う。あなたはこういう点で自分を守っていた

         のではないですか。

         (この太字の箇所では、CBTで用いる視点、観点を変えることで

         自分の偏った視野を広げるような手法を活かしている感じがします)                                 

    N  ( びっくりした顔をして、しばらく考えながら)−−−先生。どうして、

                         そんなことわかるんですか。

       実は、そんなことが頭をかすめることがあったんですけれど、今、先生に

                   はっきり言われて、そんな気持ちを自分が持っていることがよくわかりました。

             (高度な先生の要約して返すactive listeningの効果を感じます)

       先生  それと「こんな辛い気持ちで生きているだけでも奇跡」そして「こんな奇跡を

              行えているのは自分ぐらいだ」という思いも、あなたの中にあるんじゃないんですか。 

    N   (興奮して) 本当にそのとおりです。それもあります。でもそんなことって、

                       とても悪い考えでしょ。

        (ここにも本人の自己を責める罪責感が出ています)

   先生  常識的な人ならそう思うかもしれませんが、私はそうは思いませんね。

                  「自己肯定、対人関係尊重、信頼感、希望」といった肯定的思考はプラスの方が

                  一見多いように見えますがマイナスもあります。一方で【自己否定、孤独、

       不信感、絶望 」という否定的思考は、マイナスの方が多いようにみえますが、

       プラスの点も結構あります。要は、この両方の思考をうまく使い分けて

        いけばいいのですよ。この考え、どう思いますか。

       ◎ とかくCBTがよく使いこなされていないと、カウンセラ−が

       白、黒の二者択一の教示をしたくなりますが、この対話の流れをみると

       まず本人が自己否定の開示し、それの要所を先生が要約してタイミングよく

       本人に気づきを促していくところは、絶妙と感心しました。

       それと黒か白かでなく、灰色の選択だってあることがわかると、

       張りつめていた緊張がほぐれてきます。

             N   先生のおっしゃるとおりだと思うんですが、私は否定的  思考が強すぎます

        それに両方を使い分けるなんて、まだまだです。

    先生  もちろん、そんなことすぐには無理です。でも、まず否定的思考のプラスの

        意味を感じておられることが出発点です。

    N   わかりました。それにしても、この歳になってこんな話を聞くとは思いません

        でした。

      ▲ 先生の解説3

     ここでは、否定的思考の内容を詳しく聞いています。本人は、最初の否定や

     ふてくされが和らいで、 だいぶ話せるようになってきています。ここで

     否定的思考のプラスの意味を取り上げたのは、本人を元気づけるために意図的に

     したのではありません。話を聞いていて自然にこれを伝えたくなったのです。

     いずれにせよ、わずかであっても、これまでずっととっいた否定的思考のパタ−ン

     の良い点が感じられたのは前進でした。

     この話の後、少し元気を回復した本人ですが、すぐさま抑うつ的になりました。

     それは「ここまで話込んだのは先生しかいない。その先生が私に興味や関心がなく

     なったり、私に嫌気がさしたらどうしよう」という不安だったので、

    「それは信頼感が深まった証拠である」と答えておきました。

     話の焦点は否定的思考、それも特に対人関係の否定的思考に移りました。

     N  人といるとどうしても、その人に嫌がられるのではとか、その人に

        迷惑がられているのではないかという考えが沸いてきて、引き込んでしまう。

    先生  それは川の激流のようで、その考えが浮かんでくることは止められませんね。

        問題はその後です。もし、それらを肯定的に考えたらどうなるでしょう。

     N  その場を立ち去っていくわけでもないし、色々話しかけてくるので

        嫌がられているのか、どうかは、はっきりしません。

    先生  そうすると、あなたの適切な態度は。

     N  そんなに嫌いでなかったら、そこにいておしゃべりに加わる方がいいように

        思いますね。でも、私話下手です。

    先生  自分だけべらべらしゃべるのと、人の話を聞いてあげるのとどちらが

        好感を持たれると思いますか。

    N   あとの方ですね。

   先生   そうなさるつもりはありますか。

    N   少し頑張ってみます。

    この箇所の対話ではコ−チングの感じがします。マイナス思考の本人に対して、

    その偏りをほぐす質問がよく機能して効果的です。CBTでも、コ−チングでも使う

    選択的適用もプラス思考へ導くのに効果が発揮されています。 

    次のアサ−ションの心理教育(自分の気持ちも大切にするけれど、相手の気持ちも

    思いやって大切にする)これも本人の心に心にヒットします。

    それ以後は、いろんな場面での話し合いと適切な対応をめぐっての話し合いが

    中心になりました。

    たとえば① 人にものを頼まれたとき、考える暇もなく引き受けてしまう→できる

    ものかどうか考え、できそうにない場合は申し訳なさそうにやんわり断る。

    ② 人に誘われていきたくないときでも「断ったら嫌われる」という考えが自動的

      に生じて応じてしまう。→一歩立ち止まって考えて行きたくない方が強ければ

     「少し考えさせてください」とか、「予定が入っているので」と言う

     (一人で休養するのも予定である。)

    ③ 逆に友達と話たいとき(彼女は最初はいるとは言っていなかったが、実際は

      二三人いた)

     断れる気がして電話をかけられない→電話をかけたとき、時間があるかどうか聞いて、

     時間がありそうなら話し、相手が話をながく続けたがっていそうなら会う約束を

     提案してみる、などでした。 このような一つ一つの成功例が自己否定感の改善に

     つながります。 

     このような先生のご指導に応えて彼女も努力した結果職場の対人関係は好転して

     いきましたし

     母との関係も、母が自分が仕事にばかり夢中になっていて、本人のことを

     なおざりにしたことをわびたとのこと。

     とは言え、先生の言葉によると、控えめで受け身的で内向的で自信のなさは

     それ程改善しなかったとのこと。しかし、自分はこういう性格でいく」と

     開き直ったのか、何とか仕事は続けることができ、ある男性から交際を申し

     込まれてつきあっているとのこと。

     そして今は、自分の性格については、全面的に肯定も否定もせず、「よい点と

     悪い点が入り混じっているのだなあ、余り好きになれないけれど、この性格で

     頑張ってみよう」ということになったのですと先生のコメント。

     ここに健常性復帰の自己肯定感が見られます。

 

 

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