12月 31日 「相手の貢献をリストアップする」栗本渉先生
12月 31日~1月1日 「相手の貢献をリストアップする」 栗本渉先生執筆
コ-チAより配信
今回の内容は、プロジェクトの責任者が部下に対して今後の見通しや計画の実行に伴う課題
について説明し、理解と協力を求めるためには、どんなことに留意して
伝えると効果を発揮できるかの良きサンプル事例かと思います。
ここでは、コ-チングの「承認」の手法が効果を発揮していること、各リ-ダ-を統括する
責任者が過去の失敗について、部下に責任転嫁したことを反省している謙虚さが出てきたこと
などについて言及しています。
その企業の概略を筆者は、以下のように説明しています。
ある企業の事業部長のA氏はあるミ-ティングの場で一年間の活動を統括して
A氏が将来の見通しや直面する課題について一通り概観すると最後に「その解決責任こそ自分と
ここにいるリ-ダ-全員の役割だ」と伝えた。その場はピント張り詰めた厳しい緊張感が走った。
次にA氏は、組織の足跡を語り始めた。これまで何をしてきたのか?
とのように現在位置までたどり着いたのか。「誰がどのように貢献したか」一つひとつをバイネ-ム
で列 挙しながら。退職者を含めて20名を越える人々の名前が登場した とのこと。
参加者は、それに聞き入りながら徐々にうなづき始めた。
一人ひとりの貢献について言及したとのこと。その結果当初の緊張した場面は一変。
人の名前と貢献が語られる毎にうなづきの数は増え、会場には一体感が充満した。
上記の直近5行の記述から人々の一体感の背景がよく分かります。各自の業績の賞賛、承認は
やがて自分たちにも及ぶことを好感し、モチベ-ション高揚の効果が感じられます。
A氏 は厳しい。しかし、 彼のもとには人が集まる。その理由がよくわかる瞬間であった。
実は数年前までは、A氏も「人心掌握」に苦労していた時期があった。
「"伝える"ことは十分伝えた。与える環境も十分与えた。それでもやれないのは、彼らの意識と
能力の問題だ」強く言い切るA氏からは、常に部内への欲求不満が伝わってきたとのこと。
自分は相手のことを考えているが、自分は周りから理解されていない。
「リ-ダ-の行動リスト」には多くのチェックが入るが、「メンバーの貢献リスト」は空白だらけ。
そういう印象であった。
< 筆者のコメント及びそれに関する事例>
そもそも、人々は、「相手の貢献に比較して自分の努力を高く見積もる」という性癖があるとのこと。
心理学のいうところの「責任のバイアス」というもの。
例えば、カップル同士でお互いに対する具体的な貢献度をリストに挙げた場合、一般には
自分がしたことは、平均11個書けるが、相手のしてくれたことは、8個しか書けないと言われて
いるとのこと。このように我々は、「相手に対する自分の貢献度合」を過大評価し、相互にわかり
合えないという状況に向かっていくと指摘されています。
自分の努力に関する情報量と他者の努力に関するそれには、当然格差がある。
その中で、自分をよく見せたい気持ちが拍車をかけるとのこと。
一年間の総括の場のA氏の言動は、まさに「責任バイアス」からの逃れる工夫がもりこまれていた
との指摘があります。
▲ あるサ-ビス業のトップセ-ルスに筆者が調査した事例
1000人超のセ-ルス部隊の中でも、平均の4倍以上の売り上げをあげるトップ5の猛者達
への調査では、共通項は単純かつ印象的とのことでした。
ANS 周りのおかげです。
その言葉を心底から語っていたとのことです。
インタビュ-の時間の大半は、バックオフィスの 人たちがいかに有能かということを聞く
時間だったと話しています。
また、ナンバーワンの女性が教えてくれたことも興味深いことだったとのこと。
彼女の言---自分で頑張っていたころは、そこそこの成績。だが、あるクレ-ム対応を
きっかけにバックオフィスの協力の重みを感じ、以降お客様に対するのと同じように
社内の彼らのもと を訪れ、貢献への感謝を伝え続けてきた。そこから流れが変わったとの
ことでした。
◎ 通例ですと営業マンの業績は、本人の客との関係の視点内で評価し、他の部署との連携
についてこのように大事にすることまで頭を巡らせません。それでこそこの事例はとても
示唆に富んでいると感じました。
A氏の転機も「相手の貢献」を全面に出すことから始まりました。
コ-チングで実施した360度フィ-ドバックも「結果をどう活かせるか」を考えた上で
実施したとことです。
注 *360度フィ-ドバック----人事考課の査定例---上司からの査定 他部署からのそれ
部下からのそれ、取引先からのそれ
フィ-ドバックで発見した自分の強み、弱み、そして今後の課題を部下に発表する。
そして変化のきっかけを与えてくれた部下の貢献に感謝を伝えるというもの。
このA氏は単に有能な指導者であるばかりでなく、人間ができた人の感じがします。
自分がどれたけやっているのかという「自分の払っている努力」を脇に置いて
あなたの何が自分の役に立っているかという「他人の貢献」に着目したと筆者は評価
しています。そしてこの小さな流れが職場に違った流れを起こしたとのことです。
以降A氏は部下から声をかけられることが増え、会話を通じて「自分がA氏からどれだけ
助けられているかを理解していなかった」という言葉を多数聞くようになったのことです。
筆者は、次の言葉でこの記事を締め切っています。
人との関係で今の「枠組み」から離れてみたい時、「自分の払った努力」の前に、「他人に
よる貢献に着目してはどうでしょう」
◎一人の責任の重い地位にある上司の自己の弱点に気づいた反響が部下に
反省を促し相乗効果をもたらす貴重な事例です。
部下の貢献を公表することは、単に本人の賞賛に留まらず、その人の存在価値を
認めるとに繋がります。