4月5日 統合失調症の幻聴、妄想の対処法の事例
統合失調症のひろば 2014 NO3 薬でできること、できないこと
前半は、臨床心理士 藤本豊先生の記事、後半は精神科医 星野弘先生の記事より抜粋します。
NPOで少しカウンセリングしたことのある青年は、当時幻聴があって七種類の薬を
処方されて 服用していました。果たしてそんなにも多く服用すべきものものなのか、
この本を読んでいく中でその疑問が解けていくのを痛感しました。
< ヒアリング・ヴォイシズという考え方> 藤本豊
精神科の病気に限らず、病気を治したいと思うと誰もが薬に頼ること多くがなります。
しかし、精神科の病気では、本人や家族の多くが、できることなら薬は飲みたくないと
思っています。なぜでしょうか。
それは、良くなったという実感よりも、ぼっととする、のどが渇くなどの副作用のほうが
強いからです。
治療効果>副作用ならば、つらい副作用も我慢して飲むわけです。
しかし、副作用>治療効果 であれば服薬を止めることになります。
精神科の薬は後者のほうが多く、症状の改善を自覚するよりも、副作用のほうが多い
ために、すぐにでも薬を止めたいと思うのが現状のようです。
客観的 診断ができない病気
精神科の診断の多くは、「主観」に頼っています。本人の「意地悪されている」
「声がきこえる」と いった主観的な訴えについて、医師がそれは事実でなく、
「被害妄想」と考えれば、治療経験 から「統合失調症」などに診断します------------
-------精神科の場合は、患者と医師が「主観的」に病状を判断して薬を調整するので
両者の主観が一致しないと「薬が減ってから調子が悪いので
もとに戻してほしいと先生に頼んでも、これが適量だと言って変えてくれない」
「声が聞こえると先生に話したら、幻聴があるなら違う薬に変えようといって薬が変わった」
という ことが起こります。幻聴や妄想といった症状によって統合失調症と診断されますが、
これを血液検査のように客観的なものとして症状を判断するのは困難です。-----
インフルエンザであれば、人によって処方内容か゛大きく異なることはありません。
しかし、統合失調症の場合は、処方内容も薬の効き方も一人ひとり違ってきます。
▲ 薬以外の治療法
薬でうまく治療できないのであれば、薬以外の治療方法で病気とうまく付き合うことが
大切です。--精神療法と言われるカウンセリング、sst(social skill training)
認知行動療法(cbtなど各種の療法です。
これらを受ける場合も、どのような部分を治したいのかを考えて、としっかり病気と
向き合うことが大切です。著者は、「病気のことは医者に任せていればそのうち治る」
と考えずに「自分で病気の特徴をつかみ、悪い時の症状はどんなものがあるかという
ことを自分なりに 理解していくことが必要となる」と述べています。
まさに自分が治療の主体となって自分の病状を客観的に見ること(外在化)の実行
です。この外在化という用語は、CBT(認知行動療法)でしばしば出てきます。
この実践例が次に出てくる「ヒアリング・ヴォイシズ」(HV)です。
この 手法は、妄想や幻聴を病状と切り離して見ていく考え方で、健常者だって
幻聴はあるという立場に立っています。
▲ ヒアリング・ヴォイシズとは
ヒアリング・ヴォイシズ(HV)では幻聴、妄想はだれにでもある体験だと考えます。
聞こえてくる声をこのように(HV)と呼び、声が聞こえる人をボイス・ヒアラ-と呼びます。
「幻聴の世界」(日本臨床心理学会編)2010 の調査では、「普通の人の6%が誰も
いないのに、声を聞いたと回答し、海外でも4~6%の人に同様の経験があるという
報告があるとのことです。HVでは、声を聞くことはだれでもあるので、その体験を
しっかり受け止めることが大切と考えています。そしてその体験を真摯に聞くことで
声に振り回されずに暮らしていける方法を一緒に考えていきます。
HVの例会は、声のことを誰にも遠慮しないで話し合える場です。声について話すことで
声を客観化でき、恐怖の対象として声をとらえるのではなく、声との関係をつくる
ことで、 声に邪魔されずに生活していくことが徐々に可能になるとのこと。
「病状が悪化したために声が聞こえる」と思うのでなく、体調が悪い時に自分の弱い
部分が 痛くなると同様に、体調が悪いから声が聞こえてくるのだと考えられるよう
になるとのことです。(病気だから声が聞こえるから解放されて気が楽になる)
この例には、CBTの指導がされている感じがします。
体を動かしながら気分をほぐすことも効果を発揮できます。これをしているメンタルに
ハンディのある青年から聞いています。
2013年のメルボルンの「ヒアリング・ヴォイス国際会議のプログラムで、ある幻聴
体験者は、「一人でも声 とうまく話せるようになり、声との関係も変わりました。
今声のうしろに隠れている声の意味を理解することができるようになって、
前向きに声と 一緒にいい関係をもてるように努力しています。」
声が聞こえる体験を統合失調症の症状の「幻聴」とは考えて治療の対象とした
ときは、上記 のような「声との関係性」をつくることはできません。
声が聞こえるのは本人にとって 現実のことですから、その体験を否定せずに
理解しようとする姿勢が大切と著者は 述べています。
例会では、その体験者が赤裸に語るとのこと。参加者はその体験を熱心に聞いて
「そりゃ大変だねぇ」 「よく我慢できるねぇ」 「楽しそうね」 「がまんしないで
ここで 話せてよかったね」」と言った感想を率直に伝えるとのことです。
当人は、「声が聞こえるのが現実なのか、時々混乱してしまう」
「もしかすると現実ではないかも知れないと思う」と声と現実の違いを話せる
ようになって いきます。 」
このような暖かい支援の中で立ち直っていく様子が生き生きと感じられます。