1 全体の流れ
(1) 治療の初期
a まずは、クライアントの個人的な情報集めのアセスメントをします。
本人の家庭環境、成育歴、学歴、職歴、心身の症状、対人関係
等を収集しながらそれらに関わる問題を把握します。もちろん
本人の同意のもとに進めていきます。 また、こころの科学の
なかで、大野裕先生、渡邊義信先生共著のうつに関する記事で
「本人の治療についての期待も尋ね、過大な場合は、訂正して
おく」 「セッションでできることとできないことを明示しておく」
とのアドバイスは参考になります。弱い立場の人への配慮と
してこれも大切なことと感じました。
b 心理教育
本人が抱えている症状の特色、治療方法、生活上の具体的
対応方法などについて説明します。その対応方法の中に、
基本原則4に出ていますホ-ムワ-クを通しての本人自身の
自己治療、セルフカウンセリングを目指した自助努力も
も含まれています。さらに「クライアントが特に気になっている
部分があれば解消しておく」(上記の心の科学)の指摘も当
本人の不安を少なくする思いやりですし、参考にしたいと
感じました。
認知モデルの理解をして頂いて、否定的自動思考から
始まる悪循環の修正が焦点になります。
個人差がありますが、このcは、上記bに組み込まれていく
場合が多いのです。
(2) 治療の中期
CBTの技法の導入とその適用
認知再構成法と問題解決法についての実践
↓
話題についての対話とホ-ムワ-クの課題について
(3) 治療の終結
全体を振り返って学んだ技法の要点を確認し
再発防止のために話し合います。
、bの心理教育で強調ているクライアント自身の
自己治療、セルフカウンセリングの実践が
きちんと機能しているかの再確認がなされます。
その際、うつの場合、今は、仮に回復したと思い込んで
いても、情動の変化の波がかなり大きくて、また落ち込むこと
があることを告げ、そのような時、自力回復に不安のある
人は、フォロ-アップ面接を受けることができる旨予告して
おくと安心しますのでこのような心遣いも必要かと痛感
しています。
基本スキル1 双方向のコミニュケ-ション
伊藤先生のクライアントさんから聞かれた多くの苦情
として次の二点 a 話をきちんと聞いてもらえなかった。
b 話を聞くだけで何もしてもらえなかった。
これに対して先生は、「何のためにカウンセリングを
するのか? どのような効果があるのか」について
クライアントに説明していない。そのような合意が
なされていない、というインフォ-ムドコンセントに関わる
ことを指摘されています。 私もこれに類似した記事を
6月22 日のブログ「カウンセラ-として 話したいこと」
に掲載しました。このような状況にたいして先生は
援助者側のすべき事として二つの提言をされています。
a 話を適度に聞く。
b 聞いた上で対応する。
この当たりまえの対応をしていない専門家が多いから
上記のような苦情が多く聞かれるとのことです。
ここのa の適度に聞くとは、ただ聞くだけでなく、相手
の気持を受け止めて bのように次のアクションを
おこすという心遣いのことを言ってみえると感じます。
うつなどのメンタルにハンディのある人々には、それに
応じた血の通った暖かさが伝わらないと、「こんな人に
自分の気持なんか分かるもんか」という心境になった
とうつ経験者から聞いたことがあります。 偉そうな事
など言えませんが、実際に現場でハンディのある
方々をお世話していますと、型にはまった傾聴の
手法では通用しません。技法より、愛情に裏付けられ
た信念が相手の心に響くものと痛感しています。
伊藤先生は、CBTで目指すべきことに言及して
「 こんな対話のことは高度に専門的、特殊なことで
なく、むしろ私たちが何気なくやっている気分のよい
対話を実現することではないか」述べていますが
カウンセラ-が医師の診断の時のように一段高い所から
「さあカウンセリグしますよ」というようなスタンスで は
クライアントは緊張感をもって構えてしまいます。
だから自然体の普通の対話でよいのです。
さらに先生が「気分のよい対話の条件」を列挙
された中で、私の注目点は、以下の4点です。
a 率直さ b 双方が同程度に話す。
c わからないことは訊く d 相手の発言を尊重する。
双方向の対話の中て゛四つのことが実行されていく
ならば、自由な雰囲気の中で対話が進展することに
期待がもてます。とくに「相手の発言を尊重する」は
ロジャ-スのいうクライアントの変容条件の一つ
「無条件の肯定的配慮(受容) 」に関わることに
関係していて大事なことと受けとめています。
この肯定的受容の質的なレベルの高さ次第で
クライアントの自己開示が進んでいきます。
この人は、私の気持が分かってくれるという
心境になるからです。それにプラスカウンセラ-
タイミングのよい一言がさらなる効果を発揮する
こともあります。(うつの人に励ましとなることも)
それから、伊藤先生の方から双方向的対話のコツ
として次の二つの提言がありました。
a 親切である。 b 物分りが良すぎないこと
b につきましては、「カウンセラ-側の推測で理解
したつもりになっている」ことに対する忠告です。
エビデンス(確かな証拠)を重視するCBTの
立場です。ですから先生が「場合によっては
しつこく質問します」と言われるのもこの確実な
証拠を意識されてのことです。従ってエビデンス
に基づく対話であれば、具体的で、正確な理解
に基づく受容、共感も可能となり、信頼関係は
強くなります。
▲ ソクラテス式質問法
元来この質問法は、彼が街頭に出て当時の地位ある
人に知っていると思つていることに質問して一緒
になって考え真理の探究に努めたことに始まり
ます。それに関してCBTではクライアントより、よ
り具体的な情報を得る方法として、ある程度内容
の幅を制限して開かれた質問(open question)
を使用します。これにより双方向の対話が活発に
進行することを目指します。
伊藤先生は、この方式のポイントとして次の四つを
提言しています。
a 当事者が自問し自ら発見できるよう問いかける。
b open question
c どんな回答であれ相手の発言を尊重する。
d どんな回答であれ相手の発言に関心を示す。
以上の四項目についての留意点について先生は
「どんな回答が出てもクライアントの発見として
尊重し、関心を示す」ことを忠告しています。
しかし、もし自己の予測外の回答が出た時
カウンセラ-に動揺が走ることがあります。似た
経験は、時々あります。でもかえって、その
相違の根拠が判明するような対話かできれば
さらに相手を知ることになります。
質問例 調子はどうでしたか? 時間と内容があいまい
先週体調はよかったですか? (答えやすい)
後者の質問で対話は進展します。
◎ソクラテス式質問法の目的
(1) 質問によるモチべ-ションのUP
他の箇所でも、先生は、クライアントに対して
「しつこく質問します」と述べています。
その目的は、クライアントについての理解と
その具体的情報(エビデンス)の共有により
モチべ-ションを高めることにあります。
しかし、色々質問して情報を得るといっても
その前提がしっかりしていることが不可欠
と私は考えます。しっかりしたインフォ-ムド
コンセントとクライアントに対する細やかな
思いやりが必要と思います。 伊藤先生
の基本原則4の心理教育の中の説明の
仕方等を読んでもそのことを痛感します。
クライアントとの信頼関係がなくて、やた
らと質問しても効果はありません。
私のお世話しているメンタルにハンディ
のある青年が一昨日メンタルクリニック
へいって心理士から将来の就労など
聞いたそうです。しかし、彼の表情から
よい気持ちでなかったことがすぐ分かり
ました。ここが彼の一番痛いところなの
ですから、その痛みを受容しないと不快
感が残るだけです。そんな時瞬時の
カウンセリングの切り替えによる相手
へのケアが求められます。
(2) イメ-ジを共有できるまで質問を続ける。
ここでは、CBTの基本モデル図の環境
本人の自動思考、感情、体感、行動等
にわたってしつこく質問することで現場の
状況をリアルにイメ-ジ出来ます。
(コ-チングでいうビジュアル化)
カウンセラ-の描くイメ-ジと本人の体験
が一致した時、その場の状況の理解
とイメ-ジが共有できることになります。
実証的方法の過程がこれでよく理解
できますし、その間のカウンセラ-と
本人との信頼関係の強化もそうです。
さらに大事なことは、やがて本人が
このような手法に慣れてきますと
しつこく聞かれなくても自分で具体的
にその場の状況下の自己の思考や
感情、行動などを自力でイメ-ジできる
ようになり、基本原則4 心理教育で
述べているセルフカウンセリング、
再発予防の道が開けてくることです。
なお上記の「自分か慣れてくる」というのは
後で述べますセッションと伝導します
ホ-ムワ-クの作業によるコラム法(認知
再構成法)の実践でコツを習得する
からです。
基本スキル2 アセスメントと心理教育
CBTのアセスメント
アセスメントの定義
クライアント自身について、クライアントが かか
える問題、クライアントが置かれている状況
などについて、その経過と現状を出来るだけ
多層的、全体的にとらえようとする手続き
アセスメントのポイント
1 認知的概念化、事例定式化とも呼ばれる
2 医学的診断と整合する(DSM-Ⅳ)
3 CBTの基本モデルに基づく
4 アセスメントは常に参照、改定され続ける
5 尺度、数値を併せて使うことが望ましい
(以上のアセメントに関する定義とポイントは
伊藤先生のCBT初級ワ-クショップより抜粋しま
した。)
▲ CBTにおけるアセスメント
1 認知的概念化、事例定式化
、 事例定式化=ケ-ス・フォ-ミュレ-ション
これは治療者がクライアントの個々の
事情(認知、行動、身体、感情の現象を
聞き取り、その内容を病気ごとの式と照合
して分析することです。定式が特定できると
悩みの背景 が分かり、問題の解消が
可能となります。
なお、伊藤先生は、フォ-ミュレ-ションを
アセスメントに包括して使います。
私は、少しそれに抵抗感を感じますが
その意図されることは分かります。
2 医学的診断と整合するDSM-Ⅳ
The Dignostic and Stasitical manual
of Manual Disorders Ⅳ=1994年版
アメリカ精神医学会が定義している
「精神疾患の分類と診断のマニュアルの基準」
これによって病名を特定するとはいえ、専門家で、
うつの場合、単なるうつなのか、躁うつなのか判定
を見誤ることがあるとのことです。
(DSMとは別に国際基準版があります)
◎本人の病状に関するアセスメントにつきましては
フォ-ミュレ-ションで述べましたように、認知、行動、
身体、感情の現象について調べ、DSMと共通して
いれば、「 あなたのうつは、DSMに照合してみると
XXXです」ということができて診断の根拠が
明らかです。 しかし、次のような問題点も指摘
されています。(うつ病治療常識が変わる)
知床半島のエゾ鹿 NHKスペシャルより
上記の本の中で日本うつ病学会理事長の野村総一郎先生
によると「DSMは、治療方針を決めるにあたって、とてもすぐれた システムだが
その一方で浅薄化、マニュアル化と大衆化=自己診断
の蔓延化を招いた」と指摘しています。 さらに続けて、
「この方法は、科学主義という当初のねらいとは違った、思いがけない方向を
もたらした。精神医学診断の浅薄化と大衆化である。 ---DSM-Ⅳの解説
部分には、「DSM-Ⅳは料理の本ではない。これを見て簡単に診断が可能だ
などと思ってはいけない」 とはっきり書いてあるも 、このような使われ方を
恐れたためである。 しかし、だれもそのように書いている部分など読まない。
---さらにまずいのは、医学生や若い医者の教育の影響である。
最近の若い精神科医はDSM-Ⅳポケットブックという 薄手のマニュアル本
を白衣のポケットにに入れて診察している。 患者から症状を聞き出すと、この
マニュアルをみて 該当する症状数を数えて診断一丁あがりとする」
**ここでいう症状とは、直近の二週間で、抑うつ気分、無関心、食欲低下
など九項目の症状が継続していくつあるかを数えて、うつかどうかの
診断をする場合のことです。
以上のご参考になれば幸いです。
3 CBTの基本モデルに基づくはアセスメントの当然の
ことです。これは後で具体例が出てきます。
4 アセスメントの参照、改訂されつづける。
CTBの考え 方の基本で悪循環に悩む社員のことを
例示しました。その後の状況、認知、感情、行動が
変化することで、悪循環や全体像は各々どう変わる
のか、アセスメントシ-トに記録し、悪い時のそれと
比較してみると自己の変化を客観的にみることが
出来、「自己の外在化」の意味が実感として理解
できます。 同類のコラム法も、このような自己分析
力の成長を期待しています。
5 尺度、数値化による表示
これもコラム法に沿ったホ-ムワ-クの自己に関する
心、行動の記録の分析の時にこのことが出て
きます。例 その時の不安60%、セッションで
カウンセリングを受けた時20%になった。
このような実践を通してCBTへのモチべ-ション
を高めます。
▲ CBTにおける心理教育
以下に述べます上記の定義、そのポイントは
伊藤先生の「CBTカウンセリング初級
ワ-クショップ」から引用しました。
● 心理教育: 自分自身の抱える諸問題について
そしてCBTカウンセリングについてクライアントの
理解を深めるために実施される教育的
コミニュケ-ションのこと。
● 心理教育のポイント
私が注目したのは以下の通りです。
a 「クライアントの体験や理解力にあった説明をする」
平均的な医師ですと、こんな配慮がなく、医師の
目線から言います。それと対照的に相手の目線
に立った思いやりが 伝わってきます。
b 「 援助的であること」 特に病気のことを話す
時、ただ病名、症状を 伝えるのでなく、
インフォ-ムドコンセントのときのように
基本スキル1に出ている
「話を聞いた上で対応する」の心遣いが
ここでも発揮されています。これにより
クライアントは安心できます。
c 「理論的根拠やエビデンスを示す」
エビデンス=真実であることの証拠
もう少し後でコラム法によるホ-ムワ-クが出て
きます。 「ただこれをして下さい」でなく、それを
するとどんな効果があるか実例を示せば
理解できますし、レジネス(学習前の心の準備)
にも役立ちます。
d (心理教育は)継続的プロセスである。
一度で終わるのてなく、機会あるごとに教えてい
く教育であると伊藤先生は強調されます。
これは、企業の安全配慮義務と似たところが
ありまして、一方通行のコミニュケ-ションでなく
色んな疑問、不安などをクライアントから
出すことで双方向の対話の長所が発揮できると
思います。
▲ CBTがクライアントに求めることも
心理教育として伝える
伊藤先生は、どんなことでもフィ-ドバックしてもらう
必要があることを述べていますが、自分自身
特にメンタルにハンディのある人の場合 、一寸
したことでも、デリケ-トに反応しますので、
時々、どう感じたか、相手の表情をみて
聞いています。聞く私の気持が相手に伝わると
逆に質問してくれます。「自分の人相はよくないの」
「ストレスをためこんでいてはいい顔にならないよ」
「40歳になるまでに自分の顔に自信をもたないと
いけない」ある米国の大統領の言葉。
こんなやりとりを過日しました。
ストレスとどう向き合い、克服していったらよいか
少し視点を変えて一緒に「成熟した大人の条件」
について考えてみました。
極普通の対話をしながら、彼の苦痛、ストレスを
共有しながら尽力すれば彼の前途に道が開ける
時が来ることを信じています。
受付時間 | 9:00~18:00 |
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担当:佐野(さの)
愛知県名古屋市・日進市を中心に活動する佐野カウンセリング社労士オフィスです。
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