12月2〜4日 「良い質問」をする技術 その3
<質問は人と人の関係を対等にする>
質問というコミュニケ−ション手段の特徴として、「質問する人」と「質問される人」が
良い意味でフラットに、対等な関係になりやすい、ということがあります。
これは、筆者がダイヤモンド社の編集者聞いた話によると「取材が上手なライタ−は、
何万人も社員がいるような大企業の社長でも1時間か2時間話しているうちに、
すっかり打ち解けてしまう」そうです。
初めのうちは、社長さんも「仕事の一環」として「社長として受け答えしているのですが、
ライターがここぞというタイミングで「 良い質問をすると、ガラッと雰囲気が変わる」
とのことです。
ライタ−が本心から質問を重ねていく中、どんどん社長が胸襟を開き、自分から
喜んで積極的に話していく様子が傍からみているとよくわかるとのこと。
これは、もちろんライターの人柄もあるけれど、質問の「人と人との関係を対等にする」
力も大きいはずと語っています。
ここでも私は、相互の傾聴力についても考慮に値すると思いますが。
他のコミュニケーション、例えば上司と部下の間の「指示・命令」はほぼ確実に上位者が
自分より下位の人に対して下すもの。つまり固定した「上下関係。つまり固定されたされた
「上下関係が明白にある」とのことです。このことがコミュニケーションの前提になって
います。
それに対して、質問する人とされる人は、すぐに立場をスイッチして入れ
替わることが可能です。
ですから対話がうまく流れていくことになります。
しかも、質問には「思わずそのことについて考えてしまう」という強い力があります。−−−−
質問には(必ずしも上下関係がないわけではありませんが)上下関係を変化させる力が
あります。
と筆者は力説しています。さらに次の言及に注目すべき発言。
「だからこそ、良い質問は、”上司と部下、”親と子”といった固定的な立場を超えて、
どんな相手にも気づきをもたらすことが出来るのです。」と何か楽観的とも取れる
筆者の発言は気になります。
このような固定的立場を超えれない場合があるが故に、ストレス、メンタル不調がよく発生
します。そのことについて筆者の見解を聞きたいと感じました。
<質問はチ−ム作りに役立つ>
「目標に向かって士気高く進むチ−ムをつくり、仲間同士の結束力を高めるのにも、
質問の力は、大いに役立ちますと筆者は述べ、ある店を例にとって説明しています。
お客様に世界一のサ−ビスを提供するということをモット−にしている高級レストランが
あったとします。店長がスタッフに「「世界一のサ−ビスをしなさい」と言ったら、
スタッフは世界一のサ−ビスをしなければならい」と店長がスタッフに言った時、
その店長の頭の中には、すでに「世界一のサ−ビスとは何か?」という問に対する答えが
あるのかも知れません。しかし、その答えは、スタッフとは共有されていません。
「世界一のサ−ビスとは、これだ」と店長から聞かされても、スタッフは
「自分の頭で導き出したこと」のように感じることは不可能です。
それとは異なって、ミ−ティングのときに、店長から「今日、世界一のサ−ビスを
提供するために君は何する?」「君にとって、世界一のサ−ビスって何だと思う?」
といった問いかけをされたらどうするでしょう。その問について、スタッフ同士で
お互いに話し合えば、そこで出た気づきは
全員に共有されます。それを繰り返すうちに、「世界一のレストランのサ−ビス
とは何か」
という問が、自然にメンバ−の胸の内にめばえてくる。その結果、「自分は世界一の
サ−ビスを提供するんだ」という意志が、誰からも強制されることなく共有され、
浸透していきます。
店長のオ−プンクエスチョンがメンバ−全体の問題意識の共有を生み、目標に向かって
モチベーションを上げていきます。
筆者の言うように、組織にとって本当に手に入れたいものがあれば、それは命令よりも
「問」や「質問」の形で伝えた方が手に入れやすいのです。
人は、上から一方的に決めつけられたリ、命令されると反発や嫌悪を覚えます。
それに対して「質問」は、相手の頭の中にすっと入っていくという素晴らしい特徴が
あります。チ−ムでの目標の共有や部下とのコミュニケーションに悩んでいる方は、
是非この質問の力を有効活用して頂きたいとの筆者の熱い願望が伝わってきます。
<質問が会社の文化と風土をつくる>
質問の力は、周囲の個人だけでなく、何百人、何千人と集まる組織にも良かれ、悪しかれ
多大な影響を与えるとの筆者のご指摘。色んな企業の経営者とコ−チングしている
経験からにじみ出た言葉と感じます。
会社でよく交される質問は、その組織の「企業文化」や「風土」とも密接な関係がある
とのこと。
筆者が以前会った、あるベンチャー企業の社長にYさんがいたそうで、その企業では、
社員から新規事業のアイディアを集めて、よいアイディアは次々に事業化していくという
方法をとっていたとのこと。しかし、Yさんが社長になって以来、社員から多くの
アイディアが出てくるものの、なかなか実現に至らず、Yさんは筆者に
エグゼクティブコ−チングの依頼をしました。
社長のYさんに話しを聞くと「イノベーションを起こすようなアイディアが、次々と
出てくる企業にしたい」との願望。
ところが、アイディアを検討する会議に筆者が同席したところ、Yさんは、
「それは儲かるのか」「実現するまでにコストはどれくらいかかるのか?」
「本当にできるのか?」といった聞かれた社員のアイディアが広がりにくい質問ばかり
していたとのことでした。
Yさんの言 「新規事業を成功させるために、そういう質問をするように心がけて
いるんだよ」
「でも、実際に聞いてみると、まだまだ細部まで考えられていないアイディアが殆ど
でね。これまでビジネスとして実現したアイディアは一つもないんだ」
そう語るYさんに筆者は次のように質問したとのこと。
「なるほど、そうですか。ちょっと思ったんですが、例えば、同じIT業界ということで、
もし創業時のグ−グルの社長が今日の会議に同席していて、社員のアイディアを
聞いたとしたら、どんな質問をすると思いますか?」
するとYさんはハッとした顔をしました。しばらくメをつぶって考え込んだ後で、
言いました。
「他者ではやっているか?とは多分聞かないだろうな」Yさんは、自分の質問が新しい
アイディアの芽を摘んでしまっている可能性があることに気づいたのです。
◎筆者のコメント ビジネスのことでの発言として、
Yさんのように「儲かるか、儲からないか」をシビアに問いかける質問も必要。
しかし、その問は「自由にアイディアを求める」場面では有効な質問ではありません
でした。Yさんが、儲かるかとか、役立つのか、実現可能か、と質問することで、
自分の想いとは裏腹に会社を将来大きく発展させるかも知れないアイディアの芽を
潰していたかも知れない、と気づいたとのことです。
◎ 私のYさんの会社のアイディア検討会についての印象
よくあるワンマン社長の社員とのやりとりを想起しそうな例です。
社長の目線、価値観で社員の言ったことに批判的に捉えている質問の仕方ですので
これでは、折角何か社員が思いついても潰されていくようで、言う方がアホらしい
感じになってしまいます。会社も若手を育てる教育の場でもあるのですから、
提案者のプラスの面は評価し、マイナス点はどうするとよいか全体に質問を
投げかけて、皆で考えていく雰囲気にすると検討会が活性化するのではと感じました。
その後のAさんは、反省してミ−ティングの質問を変えたとのこと。可能性を摘み取る
質問から以下のような開かれた質問にシフトするように心がけたのです。
「君はどうしてそのアイディアを実現させたいの?」(動機を問う)
「市場はこれから10年でどのくらい変化 すると思うの?」
「他にはどのようなアイディアがあるの?」
「その事業は5年後にはどうなっていると思うの?」
「そのアイディアで世界をどう変えたいの?」
「他社と組むとしたらどんな会社?」
数年後、Yさんの会社では、今や誰もが知るネットサ−ビスを展開するように
なりました。
社内のアイディア会議では、次々にサ−ビスのタネが話し合われているそうです。
組織の中でよく使われる質問は、その集団の本質を表しているとの筆者の言葉。
トップが「売り上げがどうなっている」と社員に質問していれば「売り上げを重視する
企業風土が生まれ、「顧客は満足しているか?」という質問をし続けていれば
顧客志向の会社となるとのこと。
たとえ業種、業態、規模が同じであっても、会社によって企業風土が全く違うのは、
そこで交されている質問が違うからと筆者は指摘します。つまり組織の風土を
変えたいなら「質問を変える」ことが非常に有効だということですとの筆者の見解。
特に社長の質問を変えることが役員、社員の質問も
変わってくるとのことです。
(確かにトップの質問の変化は、社内の風土にインパクトを与えると思いますが、
それだけでなく 社員の教育等も不可欠と思います)