11月28日 「自分をさらけ出す上司」稲川由太郎氏執筆 11月19日コ-チAより配信
11月19日コ-チAより配信
職場を風通しのよい環境にして、気持ちよく働けるようにするためには、上司は、
部下との関係においてどのようなことを配慮すると 効果があるでしょうか?
先日、上海にある日系企総務業の総務・経理の人々にロ-カルスタッフ
(現地人のスタッフ)の開発に ディスカッションを行う機会があったとのこと。中国でよく
耳にするのは、「ラオバン=上司は絶対」 そんな権力や序列に敏感な中国人次世代
リ-ダ-達にとって気兼ねなく発言できる雰囲気や心理的な安全の場つくろうと総務、
経理達は以下についていろんな工夫をしていたそうです。
● 総務・経理のドアをオ-プンにする
● 何でも話そうとスロ-ガンを掲げている
● 問題があればいつでも 話に来なさいと声をかける。
● サポ-トが必要であればリクエストしてほしいと伝える
● 飲み会を開くなど、オフタイムを利用して彼らの話を聞く。
など様々な工夫をしていたそうです。しかし、話を聞いている中に、彼らは、部下側
から行動を変えてくれることばかりを期待しているように思えてきたとのこと。
そのような状態で本当に「心理的安全の場」を生み出せるでしょうか?
(執筆者の思い)
ハ-バ-ドビジネススク-ルのエドモンソン教授は、著書の中で「心理的安全とは、
関連のある考えや感情について人々が気兼ねなく発言できる雰囲気と定義づけ、
率直に発言することにメリットがあるにもかかわらず、内在するリスクとそれに伴う
はっきり意見を言うことへの不安のために組織としてみな押し黙っていることが、
当たり前になっている」とのこと。
ある研究家によれば「インタビュ-を受けたマネジャーとスタッフの85%以上は
懸念を口にすることないと認めていた」と考察しているとのことです。
さらに組織の現状について次のようにも述べています。
「心理的に安全なところで仕事をしたいのか尋ねられたら、殆どの人がイエスと
答えると思って、まず間違いない」と言っているとのことです。
しかし、他の研究によると、様々な国の様々な環境における心理的安全の中央値
(全体で 中央の順位にあたる数値)が100ポイント中76に留まっていることが
わかったとのこと。これは、世界規模の労働人口のうちのかなりの割合が 心理的安全
レベルがチ-ムワ-クと 組織的学習に最適なレベルに達していない組織で仕事をして
いることを示すものであるとのこと。
前述の米国の学者の著書でも、「人間的な安全を高めるリ-ダ-シップ行動」も
挙げられている とのこと、以下がそのパタ-ン例です。
● 直接話のできる、親しみやすい人 になる。
● 現在もっている知識の限界を認める。
● 自分でもよく間違うことを積極的に示す。
● 参加を促す
● 失敗は学習する機会であることを強調する。
● 具体的な言葉を使う。
● 境界を設ける
● 境界を越えたことについてメンバ-に責任を負わせる。
◎ つまり、心理的安全を生み出すには、リ-ダ-自ら行動しなければならないと
稲川氏は述べています。 これを実践したリ-ダ-がA氏とのことです。
彼は課題に取り組むに当たって、プロセスよりも成果や結果を重視して
リ-ダ-シップを発揮 してきた人とのことです。
しかし、彼に3年間で、ある拠点の立て直しを任されたものの、業績を回復
させることができず、その後、新たな組織とプロジェクトに関わるのを機会に
リ-ダ-としての変革に取り組んでいるとのことです。
A氏との関わりについて中国人の部下に40項目に及ぶアセスメントをとり、最も
気になった 項目について尋ねたところ、「(A氏は)知らないことを人に聞くのは
苦手だ」 A氏自身も「り-ダ-は、正しくなければいけない。すべてのことを知って
いなければいけない。」 と思っていたが、中国人の部下は、「それを好ましいとは
思っていなかった」と話していたとのことです。(建前と本音の不一致です)
では本当はどうしたいかと稲川氏が尋ねると、「相手の本心を知りたい。本当に
考えていることが垣間見えると安心する」とのこと。そして相手の本心を知るために
「何を始めるか」考えてもらったとのこと。
● 前の組織で業績を上げられなったことを認めて、 稲川氏に次のように話す。
● わからないことは、「教えてほしい」 「聞かせてほしい」と質問する。
● どの仕事がしたいのか、聞いてその考え方を認める。
上司が率直に心を開いて聞くことで、部下も心を開く。
それにより両者の信頼関係を築いていくことになっていきます。
すでに米国の学者が 「心理的な安全を高めるリ-ダ-シップの行動」について
例示している 「自己の知識の限界を認める」、「自己の間違いのことも示す」などと
合わせて 考えてみますと、部下から信頼される上司として求められる人柄が例示
されています。一般的に言えば上司たるもの毅然たる態度で部下に接し、部下に
教えを乞うとか、自分の非、弱みを部下にさらけ出すなんてそんなことできるもんかと
反発をくらいそう。
でも「自分を低くする人は、高くされる」という逆説も真理と思えることもあります。
今の日本の選挙運動の立候補者の人の歓心を目当てとしたパフォーマンスとは
異なって、ここでいう「上司がさらけ出す」狙いに真剣みがあればこそ、部下と
協力して目標達成の 過程でそのようなことが出てくるものと思います。
最近斎藤環先生の「社会的ひきこもり」のブログの中で、心理学者エリクソンの説に
言及しました。そのなかで、 親友とは何でも言い合える間柄であり、その体験があって
異性との信頼関係が築けて結婚へ進む。ということでした。
ここでは、エリクソンは、大人としての成熟条件としての友人関係に言及しています。
しかし、その話とは無縁と思えるビジネスの世界に視野を拡大して発想の転換を
してみますと、次のことも一考察できるのではと、ふと思いました。
上司と部下の関係はそれとは状況 がことなりますが、成熟した上司と部下の関係
としてみれば、双方の努力点がみえてくると思います。とは言え両者とも、意地も
プライドもありますので、簡単にはいきませんが、まずは、上司が 英断すること
から 始まります。 自分をさらけ出すのは、「清水の舞台から飛び降りる」
に近い一大決心かも知れません。 その結果両者にとって大きなWIN-WIN
になればその波及効果も 大きいと信じます。
A氏は、その後部下との関係が好転していった例を稲川氏に次のように話した
とのこと。 A氏は、部下の一人からこんな言葉をかけられたそうで、
「なんでも話せる上司でなく、相談できる仲間になりました。」
これはまさに上司と部下の心の壁が除去され、両者の一体感が生まれたことを
物語っています。「心理的安全」を確信した瞬間です。
部下が日本人でなく、現地の中国人であることに、私も興味をもちました。
日曜日に時々会う社長にこの話を少ししました。彼の会社もベトナムへの進出を
考えているせいか、関心を示してくれました。
さらに、A氏は、稲川氏に次のように話したとのことです。
「教えてほしい。聞かせてほしいと関わると相手は、自分が話したいように
話せるのでストレスを感じずに、本心を語ってくれていると思います。
そして"自分も間違うことや
失敗することがあるんだ"と話せたことによって気が楽になりました。"」
プロジェクトは現在進行中とのこと。「お互いに協力し合い率直な発言が増えた
ことで成果がみえつつあります。」と稲川氏は述べています。
日中政府間の心が冷え切っている中、とても暖かさを感じる事例です。